シニアリサーチャー・エンジニア
ティボ・ルギィ(Thibaut Le Guilly)

多くの企業に導入されるブロックチェーン技術を開発し、未来の課題に立ち向かう

Oct 13, 2023

ブロックチェーンの開発経験を持ち、Crypto Garageのシニアリサーチャー・エンジニアとして暗号資産の取引に関する技術開発をリードするティボ・ルギィ。オープンで安定したブロックチェーン関連の技術を活用し、企業が導入しやすく「社会にとって本当に意味のある」課題解決につながるようなプロダクトの開発を目指している。

株式会社Crypto Garage 技術本部システム開発部 シニアリサーチャー・エンジニア
ティボ・ルギィ

フランス出身。デンマークの大学院にてコンピュータの分散システムについて研究し、博士号を取得。来日後は日本の暗号通貨取引所に入社し、独自のブロックチェーンの開発をリードし、2019年にCrypto Garageに転職。シニアリサーチャー兼エンジニアとしてビットコイン関係のプロジェクトの開発を担当しながら、ブロックチェーン関連の技術開発や研究を続けている。

「社会にとって意味のある」ブロックチェーン開発を求めて

デンマークで博士号を取得後、日本人の妻との結婚を機に来日し、日本の暗号通貨取引所に入社しました。その会社ではちょうど独自のブロックチェーンを開発するプロジェクトが始まったところでした。ブロックチェーンの技術は入社を機に勉強しましたが、学生時代から研究分野である分散システムと同じ数学の概念を使っていることなどから馴染みやすかったです。最初はエンジニア兼研究者として入社しましたが、プロジェクトに関わる技術者はどんどん増え、後半ではテクニカルマネージャーとして開発をリードする立場も経験しました。

その会社で開発していたのは、参加者が限定されるプライベート型のブロックチェーンでした。技術自体はとてもおもしろかったのですが、プロダクトとして応用することが難しく、あまり企業で活用されていないことを課題に感じるようになりました。誰でも参加できる、分散化したブロックチェーンの方が社会にとって意味のあるプロダクトを開発できるのではないか。そのような思いから、ビットコインのようにパブリック型のブロックチェーンに関連する技術開発に携わることができる会社を探して、転職活動を始めました。

元々、ニュースや知人からの情報でデジタルガレージの研究開発組織「DG Lab」のことは知っていました。ニコラ・ドリエさん(C#版のビットコイン「NBitcoin」の開発者)をはじめブロックチェーン関係の有名人が在籍していたので、とても関心を持っていたのです。当時は、日本語があまり上手ではなかったので応募を悩んでいましたが、デジタルガレージがブロックチェーンがわかる技術者を求めているとのことで面接したところ、お互いの希望が合致し、ブロックチェーン技術を用いたサービスを開発するCrypto Garageに配属が決まりました。

最新技術を研究し、すぐにプロダクトに反映できる喜び

入社後から開発してきたのが、ビットコイン決済の暗号資産デリバティブ取引で用いることができる「P2P derivatives」というアプリケーションです。暗号資産のデリバティブ取引を第三者を介さず当事者間で直接契約することができるしくみで、その際にお互いの契約内容や担保物をブロックチェーン上で記録して担保するため、取引相手の契約の不履行や破綻などのリスクを抑えながら安全に暗号資産を取引することが可能となります。

このアプリケーションは、当時MITメディアラボで発明されたばかりの「Discreet Log Contracts(DLC)」という技術を使って、Crypto Garageが独自開発したものです。最初は3〜4人の小さな開発チームを結成し、まずこの新しい技術を研究するところから始まりました。暗号関係やプロトコルなど研究しなければいけないことは多かったのですが、当時出たばかりの最新技術を応用してプロダクトを開発できるのはエンジニアとしてとてもおもしろい仕事でした。オープンソースのプロジェクトだったので、開発者として自分のコードを広められるのもすごく嬉しかったです。

このアプリケーションは、発表後話題になり、自社のサービスに導入したいという企業も増えてきました。現在では、「P2P derivatives」をどのようにプロダクトに搭載するかを他社にアドバイスしながら実装を進めていく、コンサルティングの業務も担当しています。例えば、あるスタートアップ企業のサービスでは、ビットコインとイーサリアムといった異なるブロックチェーンをつなぐための「ブリッジ」という技術を、DLCを搭載することで可能にしました。オーストラリアなど海外の企業からの相談も寄せられていて、これからもっとこの技術が多くのサービスやプロダクトに用いられるといいなと思っています。

Crypto Garageで働いてみてとてもいいと感じているのは、研究できる環境があることです。上司にそのとき研究したいトピックを相談してOKが出れば、自分で論文や記事などを読みながら研究を進め、社内で勉強会を設けることができます。今も、学生時代からのテーマであるコンピュータの「分散システム」の研究は続けています。一台しかないコンピュータでシステムを構築する際、壊れた場合にはシステムも終了してしまいますが、複数のコンピュータに分散して作業をすることで、システムを安定させることができます。こうした安定性を追求したいことも理由の一つですが、何より分散関係のアルゴリズムはコンピュータの問題の中でも特に難しい分野で、エンジニアとしては難しい問題に挑戦することにこそおもしろさを感じるのです。

最近、私が勉強会で発表したのは、流行しつつある「分散型のソーシャルネットワークサービス」についてです。メタが発表したThreadsもそうですが、分散システムの技術を使うことで、一人の権限で運営方針を左右されることのない安定したSNSを作ることができます。特に分散型SNSの土台になるプロトコル「Nostr」に注目していて、日本でもカンファレンスがあるのでそれに合わせて何かしたいなと考えているところです。将来的にはプロダクト化も考えていますが、自分の興味ある分野で自由にサービスのアイデアを相談したり、提案したりできるのは、Crypto Garageのいいところだと思います。

将来の課題を予測し、新技術で解決する「未来に向かう会社」

Crypto Garageは社員がみんな優しくて、働きやすいですね。日本の企業はどうしても無理をして働くようなイメージがあったのですが、体調が悪くなったときなどにも、周りがあたたかい声をかけてくれて休みも取りやすいです。在宅ワークが中心で、比較的自由に仕事を進められるところも気に入っています。私には2歳と6歳の子どもがいるのですが、夕方5時半から8時までは仕事を中断して家族と一緒に過ごし、その後仕事を再開するなど柔軟な働き方ができています。転職してから、こうして家族も大事にできる働き方ができることにも満足しています。

Crypto Garageやデジタルガレージは「未来に向かっている会社」だと思います。日本でこれから人口が減少することで起きる課題をちゃんと見据えていて、長期的な未来予測とビジョンに基づき、今後必要になるオートメーションなどの新しい技術を研究しています。SDGsへの取り組みも大切にしている会社です。私自身も過去にデンマークの大学の研究室でエネルギー問題に取り組み、風力発電の供給量に基づいて工場の稼働時間を決める「デマンドレスポンス」という技術開発に関わった経験があります。今の分野とは少し違いますが、将来的にはこうした再生可能エネルギーに関する技術の開発にも関わりたいと思っています。

デジタルガレージのグループ全体に言えることですが、活気があって、季節ごとにオフィスでのお花見などの大規模な交流イベントも開かれていてとても楽しい雰囲気があります。新しい技術を勉強したい、そして「社会にいい会社」で働きたい人には、ぜひおすすめしたいです。

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